人の言葉から


「自分で生きる」  〜池内紀さんの言葉〜

2016年11月28日、朝日カルチャーセンター中之島での講演会で、初めてお姿を拝見し、少しお話をさせていただいたのが、たった一回だけの思い出となりました。
ドイツ文学者、エッセイストの池内紀さん。講演会のタイトルは、「私の戦後70年」でした。

著書の中では、大衆に溶け込み、まるで友達のような親しみを覚えさせる池内さんは、きっとくだけた感じの方だろうと想像していましたが、講演会に現れた方は、頭に描いていた人とは違い、最初、池内さんだと気づきませんでした。池内さんは、高貴な雰囲気を醸し出していて、風格のある方でした。立派さに目を奪われました。

講演会では、戦争に関わる様々な国内での出来事に、ヨーロッパの状況をまじえながら、たくさんの興味深いお話をされました。最も印象に残った言葉は、「自分で生きる」でした。池内さんは、特に、助詞の「で」を、濁点がふたつ付いているかのように、強く発音されました。自分で生きなければならなかった、自分で生きてきた、池内さんが、強い思いを込めて、「自分で生きる」ことが大切だと話されました。池内さんの言葉は、今も耳に残り、心に刻まれています。

2019年8月30日、大変残念ながら、池内紀さんは、お亡くなりになりました。講演会の時、ヒトラーについての本を書きたい、と話されていたのを覚えています。もっと時間が欲しかったかもしれないと、思いを巡らせています。

たくさんの素晴らしいエッセイや、翻訳本、紀行記を本当にありがとうございました。何よりも、お話させていただいたときに伝わったお人柄は、エッセイの中の池内さんとぴったり重なり、温かく優しい、親しみやすい方だったことを、ずっと記憶に留めたいと思います。

2019年10月10日